今週のomi家(番外)


2004年夏

TO子からメールがはいってきた。

「来週、手術する」

えっそんな。TO子は昔々、私がOhioにいたときの友達だ。彼女は非常に優秀でI大学の交換留学生として大学にきていた。その後も連絡がとだえず、私が香港にいる時も遊びにきてくれた。

TO子は今、ベルギーにいる。彼女は大学をでてから教師になったが、すぐにまたニューヨーク大学の大学院に戻った。そこでMBAを取得して、日本でドイツのフィルム会社にはいり、それからベルギーの本社の配属になったのだ。この本社配属は東洋人の女性でははじめてであり、それが自分の友達だと思うと誇らしい。何百人もの顧客の前でプレゼンをしたり(もちろん英語です)、海外出張をこなしたり忙しい毎日だ。

それが突然のメールで手術するという。こういう時はやっぱ友達がサポートしなくっちゃ。といってもベルギーとの距離はかなりのものだ。TE子とKARに相談した。そしてみんなで小学生のように寄せ書きを作り、それを送ろうということになったのだ。Ohioのときの友達は今でも連絡をとりあっている。何人かは海外にいるが国内でいつも連絡を取り合っているのは女4人、男5人くらいだ。こういう相談は絶対に決まるまで男組に言ってはいけない。特にそこにK彦がはいると話しが混乱する。そこでどのような感じでサポートしていくかを女組で決めて、K彦に電話した。



(ここからはもうサポートの文章ではなくなります)

K彦は岡山の某大学の学生課に勤務している。夜、自宅に電話させてもらった。K彦の奥様はしっかりしてものすごく感じがいい。よくこういう方がK彦のところにきてくれたものだと思ってしまう。はじめ電話口に奥様がでられてすぐにK彦に変わってくれた。相変わらずの声。(これはしゃきっとした声ではないということを意味します)

「おーomiか。どうしたん。」

「実はさあ。TO子が入院するらしいんだわ。」

普通の人だったらここで大変だとか驚きますが、K彦の場合はそういうことはありません。

「いやー実はさあ。オレも具合わるいや。クモ膜下ほうのう?のうほう?(はっきりいってちゃんと聞いてないのでよくわかりません)て言われてさあ。」

「はあ〜〜」

「あんた、なんで自分の話になるの。あんたの病気のことを聞くために電話しているんじゃないわ。入院しているわけじゃないでしょ」

「そりゃそうだけどなあ」

じゃあ話しをそらさないでよ。そこで私は話しをもどした。こんな元気そうなのにいちいち話しにつきあってはいられない。

「でね、TO子にみんなでお見舞い送ろうと思うんだけど」

「オレが入院したときもお見舞いくれるかなあ」

どうしても話しがずれていく。これがK彦に最初に連絡をいれなかった理由だし、それをみんなも知っている。

「あんたが入院しても誰も見舞いに行かない」

私ははっきり言っておいた。

「オレも結構落ちこんでいたんだけど、やっとこのごろ大丈夫になってきた」

その時、突然彼は

「うお〜」

と大きな声でほえた。それと同時に我が家でも「オー」という声があがった。電話口でほえられたことのない私は飛び上がるほどびっくりした。

「日本、一点いれたわ」

は〜〜〜?

「あんたテレビ見ながら、私の話聞いてるの?」

この日はサッカーの日本代表がバーレーンとアジアカップの準決勝を戦っている日だった。そりゃ気になる試合だから、テレビを見ながら電話してもいいし、早めに電話を切り上げてくれてもいい。(特にはやめに電話をきりあげてくれることは私の方から願っている)しかし何も電話口でほえることはないでしょう。私はこの時、確信した。彼の病気はたいしたことない。

「でね。」

私はとにかく用件をつづけた。

B5の紙になんでもいいからメッセージを書いて私のところに送って。それからカンパもして」

このカンパというのは単にそのメッセージを送る費用だけである。

「メッセージって何を書けばいい?」

あんたは小学生か。書く内容まで私が指示してどうする。でもまたちぐはぐなことを書かれると困るのは私だから、言った。

「自分の近況とか、TO子は旅行が好きだから、最近行ったところのこととか、昔の思い出とか」

「そうだ。昔、ニューヨークで会ったときのこと書こうかな」

K彦は昔、某旅行会社の添乗員をしていたことがあって、そのときお得意さんのために当時、ニューヨーク大学にいた、TO子に通訳を頼んだことがある。K彦に言わせるとニューヨークの夜景を見ながら、TO子とムード満天だったというのだが、TO子の方からは「やっかいだったわ」というコメントを聞いたことがある。

「まあなんでもいいから書きなよ」

ここまでですでに1時間近く電話している。K彦と電話するととにかく長電話になる。一度なんか香港に電話してきて2時間も話した。特に用事もないのにだ。彼が言うには「会社の金だから」ということだったが、私は「そんなに暇なのかい」と思った。

そして話しはまたずれる。

「オレ今度、銚子の方に行くかもしれない」

銚子というのは彼が勤めている大学が去年、銚子に大学を作ったのでそちらの勤務になるかもしれないということをさしている。彼はもう何回も銚子に行く、銚子に行くと言っている。一度なんか

「今度、みんなで銚子に泊まりにいかない?」

といわれた。なんでも銚子の民宿にみんなで泊まりにいって、おいしい魚を食べようというのだ。これをTE子に話したら、「あきれてものが言えない」といっていた。

「就職課から学生課になって、出張が減ったんだよな。頭が痛いのはストレスが発散できる出張がなくなったからかもしれない」

要は普通に仕事をしていてもつまんなくて、頭が痛くなるということだ。なんで私がこんな馬鹿な話しにつきあっていかなくちゃいけない。しかも彼はずっとテレビをみながら話していて

「お〜〜。日本が勝ったよ。最後まで見ててよかった」

とまで言った。私は普通、何の努力もしないでも話しがすっといくところを何回も何回も修正しながら、やっと最後までもっていった。ここまででかなり疲労困憊です。

「この連絡を男の方の全員にまわして。」

私は半ば命令的に言った。

TE夫とは今こっちから連絡がとれなくなっているのでなんとかしてそっちから連絡してみて。Eにもできれば連絡とって」

と細かく指示した。

「それから私はもう寝るから今夜は絶対に電話しないで」

私はこんなに高飛車に物を言ってもいいのかなと思うぐらいぴしゃっと言った。

そしてようやく電話を切って、間に合った。今夜は韓国ドラマよ。とテレビに向かった。すると15分ぐらいたってから電話がはいった。

「omi。Dから連絡はいった?」

「いいや、はいらないよ。」

「あいつしょうがないなあ。連絡しろって言ったのに」

だから、今夜は電話するなって言ったでしょ。Dからの電話もK彦からの電話も欲しくない。ドラマを途中で中断させられた私は言った。

「あんた、なんで連絡してきたの? 私は寝るっていったでしょ」

「だからはやく連絡したんだ」

だから、連絡するなって言ったんだよ。

いやあこんなことでomi家が書けるとは思わなかった。一応、今週はTO子への応援で書いたのだけど、K彦のせいで私の方まで狂ってしまっているわ。TO子はやく元気になって、東京に遊びにきてね。





今週のomi家(番外その2)

K彦というのは昔からまわりくどい。すっといえばいいこともまわってまわって話をするものだから、最後にはなんのことだかわからなくなる。先日の長〜〜い電話でも何度も軌道修正しながら話題をすすめたことは前回に述べた。TO子へのお見舞いのことを伝えたときも、すでに女組みで決めたことをぱっと飲みこんでくれればいいのに、また話しをずらした。

「千羽鶴もいいなあ」

これは彼のロマンなのか気持ちなのかは定かではない。

「あんたが500羽折ったら、あとは私たちでなんとかする」

と言うと、

「オレ、鶴ようおれんねん」

と言われた。

ここで問題なのは鶴の折り方を幼稚園の時に習ったかどうかではなくって、鶴が折れないのに千羽鶴を作ろうと提案したことだ。このようなことは彼との会話ではめずらしくない。

しかも常日頃から頭の中がくるくる廻っているものだから、少し忙しくなると、そのくるくるの回転数が忙しさという遠心力で膨大なものになってしまう。 

みんなからTO子への応援メッセージが届いている時に、K彦からメールがあった。

「ゆっくりTO子へのメッセージを作成する時間がなくなりました」

なんでやねん。私も強気で、

「ゆっくりじゃなくていい。とにかくなんでもいいから書いて送って。RYOからはもう着いているよ」

と返信した。しかし送ってから多少、心配にもなった。この前の電話で体の具合が少々悪いといっていたからだ。まあ間に合わなければしょうがないか。とは思っていたが、今度は電話があった。

「うちの学校の高校が甲子園行くんねん」

あんたの学校っていつから高校になったの。

「それってどこの高校のこと?」

「うちの学校につながっている高校だよ」

は〜〜〜?

またわけがわからなくなった。K彦の勤めている大学には付属高校があったけ?(これは実は知らなかったがグループ内の高校が存在していたようです)

「それで突然、忙しくなった」

あんたはおかしいんじゃないの。やっぱ。その高校のこともよくわからないけど、あんたの学校の高校と想定して、その高校は予選も戦わずして甲子園に行くことになったんかい。ひょっとしてその高校が地区の決勝戦にでていることを知らず、または決勝戦で勝つかもしれないということを予測せず、忙しくなるかもしれないということを銀河系のはるかかなたのことでしか考えてなかったのか。はじめに用事を片付けようとか、omiに迷惑をかけないように行動しようとかまったく考えられないのか。千羽鶴まで折ろうと言っておいて、メッセージすら送ることもできなくなったのか。

本当はここで怒ってはいけない。なぜならば彼の頭の中は遠心力を用いた高速回転でくるくる廻っており彼自体どうしていいのかわからなくなっている状態だからだ。しかしこのようなことを過去にも何回か経験している私はやはり怒った。

FAXでいいから送れ」

すると予想していなかった言葉を投げかけられたために、彼はもごもごしてしまった。そして高速回転の刃は突然彼の思考キャパシティーを超え、その中、彼は振り絞るように言った。

「やっぱりだめかもしれない」

「あんたねえ。FAXぐらいあるでしょ。FAXもくれないようじゃもう友達じゃない。」

「オレも覚悟してるよ」

覚悟はしなくていいからFAXよこせっていうの。私もだんだんなぜこんなにメッセージひとつにてこづらされるかなと思った。本当に本当に思った。

思えばOhioにいる時、サウジの人達と食事の約束をしてきたのも彼だった。そのときはラマダンで日が沈むまで晩御飯が食べられなかった。日が沈むといっても、Ohioの夏は9時ぐらいまでは明るい。なんでこう要領が悪いのかと言ったものだ。またベネズエラの人達と食事するのに、オムレツのメニューを決めたのも彼だ。1人、2人ではなく何人ものオムレツを焼いて、はじめに作ったオムレツはつめたくなった。そのときもなんでこんなメニューにするのかと思ったものだ。またみんなでドライブに行った時も道を尋ねるのに、かくも要領悪く聞けるものだと感心したことは一度、二度ではない。あの温厚なTE夫でさえ一回、

「あいつ何してるんだろう」

と言った程だ。

それでもだ。彼が上京するときはちゃんとみんなに連絡して集まるようにてはずを整えたり、(これは半分は他の人たちに会えるのが楽しみだったということがありますが)電話がかかってきても気持ちよく応対したりしてあげていた。

みんなもk彦がくるのを楽しみにしていたというより、みんなに会えるということうれしかったのかもしれないけど、とにかく集まったわけだ。でもこれからは上京の電話がかかってきたら、冷たくいう。

「私は忙しいから」

絶対に言ってやる。私の頭の中も高速回転のモーターを使って超スピードのムーヴメントで対応してやる。

私の怒りはTO子のお見舞いとは別に頂点に達した。

 
 しかしK彦の場合、事はこれだけでは終わらない。応援メッセージを送らなくてはという日の朝、6時半に電話がかかってきた。私はまだ寝ていた。

「おー、omiか」

朝、6時半に電話してきて、ファーストネームで私のことを呼ぶのは人類の中でおそらくK彦だけだろう。主人だってこのような時間に電話すると、怒りの嵐の中をさまよわなければならないことを知っているので、絶対にしない。

「おかげさまでうちの高校1回戦勝ってさあ」

この一言って怖いもの知らず以外の何物でもない。なんで朝6時半から高校野球の結果を電話で知らなくてはならないのだ。私は自分で声のトーンが落ちるのを感じた。

「あんたそれを知らせるために朝から電話してきたわけ?」

「いやいや、これからファックス送るからさあ」

彼は私が怒っているのを知っているのか知らないのか、明るく言う。

「まだ6時半だよ」

「だってomiは朝早起きだって言っていたじゃん」

K彦は変なところで記憶力がいい。私が覚えていないこともこのようにしっかり覚えている。ただ問題は、私が早起きをしているのは普段、息子のお弁当を作るためであり、何も夏休み、しかも息子の合宿中まで早起きをしているということではないということだ。彼の言っていることは正しい。だけどどこかほんのちょっとずれているんだ。

「今、自宅じゃないんだ。」

なるほど、だからこんなに朝早くから電話してこられるんだ。

「ここの旅館からファックス送れるかどうかわからないけど、これから送るから。オレはちゃんとつじつまは合わせるから」

なんのつじつまかわからないけど、合わされる方はたいへんだ。しかも朝早いのにここまでで15分ぐらい話している。そしてしばらくして、私がラジオの  韓国語講座を聞いていると電話がなった。そんなに一生懸命に勉強しているわけではないが、毎日、この講座を聞いている私はどこまでも間の悪いK彦のために、FAXを受け取った。

FAXの文面まで詳細に書くことはできないが、(内容に問題があるわけでなく、RYOの感動した文に比べどこかばたくさいからだ)これもまたどっかずれているんだよね。文面の最初に、omiさんへという文が何行も書いてあり、その下にTO子へという文が書いてある。しかもその文を読むと、

「今は教育費にお金がかかって海外旅行には行けません。」

と書いてあるのに、

「今度はベルギーで会いましょう。」と結んでいる。

あんたはワープしてベルギーまで行くのか!

私はomiさんと最初に書いてあるそのFAXをそのままTO子に送ることにした。TO子もきっとなんのことだかわかってくれるでしょう。

そしてまた電話がかかってきた。

FAXとどいた?」

おかげさまでこの電話の時まではすっかり目が覚めてしまった。

朝一番の電話というのは怒りの対象なのに、どうも相手がK彦だと調子が狂ってしまう。そして私がはっきり目が覚めたところで彼は何度もいった。

「オレはやることはちゃんとやるから」

このちゃんとという意味をどのように理解するかは個々の感性の違いかもしれないが、ちゃんとの影にどれだけたいへんな思いを毎回するのか、またこれから先もまたどれだけこういうことが続くのかと思うと計り知れないものがある。そのたびにomi家の号外がでそうである。


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