モーターサイクルダイアリーズ


2005年1月27日

WAのお薦めで見にいった。

この映画はチェ・ゲバラの若い時の旅行の物語だ。(かなり簡単に言ってしまってます)
友達にチェ・ゲバラといったら、
「またずいぶん古い話ね」
といわれた。そういわれるとそうだ。
この名前を聞いてすぐにキューバが思い浮かぶ人は専門家ではない限り、それ相応の年をとっているはずだ。WAから映画の話を聞いた時にゲバラかと思った。高校の時にゲバラのことをレポートしたことがある。しかしよく思い出してみるとほとんどのことを忘れている。
じゃあと思って見にいったわけだ。

この映画自体はゲバラが参加した革命とは直接は結びついていない。ゲバラがブエノスアイレス大学の医大生だったときに友達と挑戦したバイクでの南米の旅行のことが描かれている。もし彼が革命家ではなかったらこの映画はまったく違った青春映画として見られると思う。かなり無鉄砲な旅だけど若い時にしかできないというさわやか路線の映画になったはずだ。

しかしチェ・ゲバラは革命家になった。

ゲバラは1928年アルゼンチン第二の都市ロサリオに生まれる。本名は映画の中で言われていたとおりエルネスト・ゲバラだ。小さい時から喘息の持病があり、それが一生彼につきまとう。(高校のときに読んだ本の中でここはよく覚えている。喘息で寝込んでも本を読んでいたというのがものすごく印象的だった)ブエノスアイレス大学の医学部に入学。大学在学中の1951年に南米の旅行にでた。(この時のことが映画になっている)アルゼンチンで軍医となるのを避けるために学位習得後ゲバラはボリビアへ逃げる。そこから再び旅がはじまる。旅をしながらゲバラはさまざまな亡命者にあう。そして中米、グァテマラにたどりつく。そこでは白人とインディアンとの平等化が断行されようとしていた。そこにはそれに反対するアメリカの圧力もあった。ゲバラが最初にアメリカとの圧力に出会ったのがこのグァテマラである。しかしグァテマラでの革命は失敗に終わった。ゲバラはそこで妻となるペルー人の亡命者イルダガディアに出会う。2人はメキシコで結婚。イルダはカストロをゲバラに紹介する。それからはカストロをささえキューバ革命に身を投じるのだが、最終的にソ連がキューバにはいりこんでくることに対してのカストロとの意見の違いでキューバを出る。アフリカ、南米を転戦し、最後はボリビアでCIAに射殺される。

彼が常に一環してもっていた考えは貧しい者に対してのおもいやりだ。(ここも本当はもっとむずかしい言い方をしなければならないけど、簡単にしないと私の頭がついていけない。だからキューバが安定してソ連に従うことに違和感を感じたのだろう。これからのキューバがどうなるかと考えた時に大国ソ連の下にいてはいつまでもキューバが大変なままだという思いが強かったのだろう。

これだけゲバラは人のために戦ったのだが、アフリカでは失敗している。高校の時に本を読んで革命は民衆の気持ちがなければ成功しないということを強く思った。(ここのところは何十年たっても覚えている)アフリカでは困っている人も彼の考えになかなかついていけなかった。しかしこのような戦いの中に常に身を投じ、成功した革命の上に乗らなかった生き方が本物を感じさせてくれる。ゲバラが今でも人気があるのはそこにあるのだろうと思う。

モーターサイクルダイアリーはゲバラにとっては一番中心となる革命はまったくでてこない。みていてさわやかだ。ただところどころに描写されている南米の貧しさが彼の人生のその後を予感させてくれる。

鉱山で働く人々。そこでしか生きていけない、しかも生きるための最低限の生活しかできない人々。
その背景には美しい広大な風景が広がる。
映画の中で描写はまったく強調された部分がない。
たんたんと語っていっている。
しかしこの美しい自然は苦しんでいる人々がなぜ苦しまなければならないのかと強調させているようだった。
この場面は私はものすごく印象的だった。
俳優の目がするどかった。ゲバラ達はあえてこの鉱山に行っている。
彼の視点ははじめから社会の矛盾に対して向けられていたということがわかる。

ハンセン病で苦しむ人々。
そこで医療活動をするゲバラ。
彼は常に人として患者をみている。
これは彼が目を向けたというのではなく、また彼ががんばってやっていることでもなく、自然になした行為だ。彼の性格がわかる場面だったし、ゲバラが人間として一番大切なものをもっているということがわかる。

まったく革命につながりのないようにみえる映画の中でゲバラが革命家になった背景を映し出していっている。しかもそれが自然で、映画のメインの部分に隠れているところがすごくいい。
バイクに乗った旅行。
若者だったら一度は経験してみたいだろう。
しかしそれが許される人々は当時の南米にはそうたくさんはいなかったはずだ。
そういう裕福な世界にもともとは彼がいたということもわかる。
実家での家族との会話やガールフレンドの家でのパーティー。
そして旅行ができるという時間を持った若者。
医者として保証された未来。
本当だったらこのような中から革命家はうまれないはずだった。
このうまれないはずだったものが生まれたというところを映画では理解できるようにしてくれている。

旅の途中の描きかたは青春映画そのものだ。
自分達を新聞社に売り込んで自分の記事が新聞にでていることでバイクをなおしてもらおうとする若者らしい発想。
またバイクがもうつかえなくなりそれをあきらめなければならないときの表情。
歩きながら旅を続けるという無鉄砲な進め方。
野宿。
冬の川に飛び込んで射止めた獲物を拾ってくる行動。
若いからこそできる生き生きとしたものがこの映画の中にはつまっている。

この映画をバックアップしたアルベルト・グラナードは若い時にゲバラとともにこの旅行をした老人だ。彼は映画の撮影クルーとともに52年前の道をまたたどった。そしてスタッフや出演者に助言を与えた。彼のこの思い出が映画に強く反映されていることは言うまでもない。その時の記録がもうひとつの映画「Traveling with Che Guevara」をつくった。この老人にとってこれは生涯の中でかけがえのない旅であり、この旅が貴重な財産になっていることは容易に想像がつく。

映画の監督はロバートレッドフォードだ。俳優としても好きだったが、この映画を見てまた彼のファンになった。心の中にあるレッドフォードの澄んだものが表れていると感じることができるる。レッドフォードが出演した映画「明日に向かって撃て」では最後にボリビアで射殺されるストーリになっている。また「ハバナ」は1958年のキューバを描いたものだ。このような作品がこの映画に結びついているかどうかは不明だが、なんらかの影響があったかもしれない。

またアルベルト役の俳優はゲバラのはとこにあたるそうである。

裏をたどるとこのように不思議なものが潜んでいる映画だが、ゲバラが革命家になったということではなく、若い時の旅行がいかに素敵で生涯の宝物になるかということで見ることにこの映画の意義があると思う。ゲバラのことを何も知らないでこの映画を見たかった。



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